大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和32年(ラ)130号 決定 1957年3月20日

申立人(競落人) 日高良雄

相手方 株式会社東亜化学工業研究所 外一名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一、申立の要旨

申立人は「申立人の委任する神戸地方裁判所執行吏は別紙目録記載の建物につき相手方等の占有を解いてこれを自ら管理せよ。執行吏は管理方法として相手方等又は右建物に居住している第三者をしてその全部又は一部を使用させることができる。」との趣旨の管理命令を求め、その申立の理由とするところは次のとおりである。

「債権者千代田実業株式会社、債務者株式会社東亜化学工業研究所、所有者横田創造間の当裁判所昭和三〇年(ケ)第九一号不動産競売事件において申立人は同三一年一一月一四日本件建物について競落許可決定を受けた。しかして代金支払期日に代金を納めなかつたため再競売決定がなされたが、同三二年三月二日代金等を納入し本件建物の所有権を取得した。そこで申立人は引渡命令を申し立てる予定であるけれども、本件建物の賃貸借の存否並びに占有関係は複雑であり目下調査準備中であるので、さしあたり本件建物を占有する相手方等に対し民事訴訟法第六八七条に基き管理命令の発布を求める。なお同条に管理命令の申立をなしうる場合として「競落を許す決定ありたる後引渡あるまで」と規定されているから本件申立は適法である。」

二、当裁判所の判断

一件記録によると、当裁判所昭和三〇年(ケ)第九一号不動産競売事件において申立人が同三一年一一月一四日本件建物について競落許可決定を受けたこと、申立人が同年一二月二六日の代金支払期日に代金を納入しなかつたので同日再競売決定がなされたこと、再競売期日は同三二年三月六日に指定されたが申立人は同年三月二日代金、代金支払期日より代金支払までの利息及び手続費用を支払つたことをそれぞれ認めることができるから、申立人は競落人の地位を回復したものということができる。

しかして申立人は管理命令の発布を求めるが、代金全額の支払があつた後においてこれを許すことができるであろうか。この点について考えてみることにする。

競売法第三二条第二項により準用される民事訴訟法第六八七条第二項第三項に、執行裁判所が管理人をして競落の目的物である不動産を管理せしむべきことを命じ又債務者(所有者)の占有を解きその不動産を管理人に引渡すことを命ずべしと規定したのは、競落人が代金全額を支払うに至るまではこれに不動産を引渡すことができずそのため当該不動産を占有する債務者の事実上の処分に基く危害に対し競落人及び債権者の利益を保護することを目的としたものである。これに対し代金全額が支払われたときは競落人は自己に対し引渡命令を求めることができるのであつてそれによつて目的物件を支配内におさめることができるのである。従つて競落人としては、代金支払期日に代金の支払をするまでは管理命令並びに管理人に対する引渡命令により、又代金支払以後は競落人に対する引渡命令により何れも当該不動産の保全方法を構じられるわけであつて、代金支払以後において管理命令並びに管理人に対する引渡命令はその必要をみない。すなわち、管理命令並びに管理人に対する引渡命令を発しうる時期はともに代金支払期日に代金の支払があるまでである。同条第二項に「競落を許す決定ありたる後引渡あるまで」とあるのはこの法意に出たものに外ならない。

申立人は引渡命令の申立につき準備を要するのでさしあたり管理命令によつて保全する必要がある旨申し述べるようであるが、法律の趣旨とするところは前記説示のとおりであるばかりでなく、管理命令を発するについてもその審理はこれを発しうる相手方或は挙証の程度等の点において競落人に対する引渡命令のそれと同様になされることが要請されるのであつて別段引渡命令に対比して簡易に発せられるわけのものでないから申立人の右の理由は考慮に値しない。

そうであるとすると、申立人が競落代金を完納していること前段認定のとおりである以上、本件申立はこの点において不適法であるからその余の判断を省略してこれを却下することとし、申立費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 吉井参也)

目録

神戸市灘区新在家南町三丁目六〇番の七、六〇番の九地上

家屋番号 六〇番の五

一、木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪 一三坪六合九勺

外二階坪 一〇坪一合七勺

附属

木造瓦葺二階建事務所 一棟

建坪 一〇坪

外二階坪 一〇坪六合六勺

木造瓦葺平家建倉庫 一棟

建坪 一五坪

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例